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廃車体の慟哭 [鉄路と風景]

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今日は晴れていたのに北風が強く、体感温度が低い1日だった。そろそろ陽が西に傾きかける頃合いである。
遠州諏訪原城の段丘向こう側に陽が落ちようとする少し前、私の前に鉄道車両の台車、動輪、その他の部品が再利用されないまま、赤錆びた状態で積まれていた。
強い風に砂埃が舞い、部品に吹き付けていた。
この部品は何から外したのだろうか?
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振り向いて陽が落ちようとしている西に目を向けると軌道があり、留置線の上にSLが置かれている。
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「あれ、撮りに行ってもいいかなぁ」
「いやぁ、ここ立ち入り禁止なんでぇ」
「じゃぁここ(公道)からなら撮っていい?」
大井川鐡道の社員さんは不承不承頷いて、社用車ワンボックスに乗って去っていった。
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誰もいなければ、聞かなければ近くまで見に行って機種を確認したかも知れない。でも目の前に敷設されたレールは錆びてはいるものの廃止路線ではないのです。本線とはいえないが現役なのです。迂闊に跨ぐべきじゃない。
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私は何処にいるのか。
陽が西に傾きかけた頃、静岡県島田市金谷の大井川沿いにいます。
大井川鉄道のSL発着基地でもある新金谷駅から、川の土手の方向に分岐する引込み線があって、その先に役目を終えた廃車置き場があるのですよ。
そこには現役を終えて廃車となったSLや客車、貨車などが野晒らしに置かれている。公園や新橋駅西口にあるような静態保存ではなく、解体されるまで、鉄屑になるまでそこに置き晒したままなのです。
下のMAPで、本線から川の方に向かって1本の支線がヒョロ~ッと分れた先にあります。
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大井川鐵道本線は沿線人口の減少によりダイヤを大幅に減らし、現在で9割方はSL列車を利用する観光客が主体になっている。経営再建に必死です。
現在在籍している電車は全て大手私鉄の車両で、他社から譲渡を受けたものばかりです。自社製は無いと思う。それはそれで様々な車種が見れるから鉄道博物館の様相を呈しているし、観光客やファンには受けているらしいですが、他所から貰った中古車両だからいずれあちこち故障する。現在運行しているSLや車両を修理する際に部品交換が必要となった場合、部品ストックがあればいいが無ければどうするか。
自社で製作したり、全国にある静態保存中のSLの部品を譲り受けたりする。あるいはこの廃車置き場の車両たちからも使えるものは外して使うのだという。
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そうやって部品をどんどん外してけばいつかは役立つ部品が無くなる訳だが、そうなる前、部品確保用のために置かれているものだと聞き及ぶ。
ある意味で残酷ではある。解体するならすぐに解体すればいいのにと思ったりする。他からの貰い物だからだろうか。
でも大井川鐡道は経営が厳しいので解体する費用も捻出できず、こうして置いておくことしかできないのではないだろうか。
社員さんたちもホントはいたたまれない気持ちなんだと思いますよ。一部を取り外す時の音は車両の悲鳴に聞こえるでしょう。
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SLは横を向いているので機種や表情がわからない。歩み寄って見てみたい気もする。
その時、声が聞こえたのです。女性の声だった。
「来ちゃだめ」
何だって?
「私を見に来ないで・・・こっちに来ないで・・・」
えっ?君か?
声は、目の前のSLからだった。

そっちへは行けないよ。入っちゃいけないって言われたし。言われなかったらそっち行って撮ったかもしれないけど。
「見ないで・・・立ち去って・・・撮ったのっ!!!」
強い口調になった。

すすり泣く声に変わった。
「撮ったのね・・・」
この距離で横から撮ったよ。それはさっきの作業員に許可取ったぜ。
「あなたも私を撮ったのね。私はもう本線を走ってた頃の私じゃないのよ。こんな私を撮ってどーするの」
責めるような口調になった。
「そうやってこれまでも何人か来て私を撮ったわ。アナタも私を撮って、誰かに見せて嗤いものにするんでしょう・・・」
嗤いもの?
そんなつもりはないぞ。
「でもネットに載せるんでしょう?」
う~ん、そうだなぁ。
ちょっと返事に困った。この場をどう切り抜けようか。
しばしその場で泣きやむのを待った。

わかったよ。消すよ。
「・・・」
消せばいいんだろ。今消すから。
「待って・・・」
???
今度は何だ?
「消さなくてもいいわ」
いいのか?消さなくていいのか?
「撮ってしまったんですものね。その代わり、私の気持ちを、心の叫びもそのままUpして載せてちょーだい」
それでいいのか?
「アナタだけじゃないし。そうしてくださるなら」
わかった。そうする。
「・・・」

いずれ彼女の美しいボディからも動輪や連結棒、台車などの部分が剥がされ、原型を留めなくなる運命が待っている。
だが残酷なことにそうなるまでにはまだ時間がかかる。彼女の再利用できる部品が無くなるまでです。
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この日、線路上には廃SLが2台、車両は2列で数台、無蓋車2台が静かに置かれていた。
この無蓋者、さっきの従業員さんには悪いけど、侵入禁止のロープが無い箇所があったのです。跨いだんじゃないですよ。ギリギリお許しください。
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その先には客車が2列、留置されていた。屋根があるだけマシですね。まだまだ走れそうですが。
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このSLは各方面のサイトに載ってますね。相当長くここに置かれて晒されていると思う。
もう軌道上を引っ張って行くこともできないのではないか。引っ張ったら割れて崩れそうだ。
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荒れるに任せています。これが夏場だと草木や蔓、蔦が伸びて凄い光景になるらしいですよ。
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このSLは、後からこの場所に来て解体されてった後輩たちを今日まで見てきたのだろうか。
また声が聞こえた。今度は男の声だった。
「俺を、俺を解体してくれないか・・・」
私はギョッとした。

君か?
今のは君が言ったのか。さっきの彼女のように。
どうしろって?
「俺を早く解体して欲しいんだ・・・」
いや、そう言われても。悪いが私は君を解体することはできないよ。
「俺はもう何年もこのままの状態なんだよ」
それは知っている。君は有名だからね。さっきの彼女(SL)や貨車、客車たちより前からここにいるのだろ。
「知ってるのか。なら尚のこと早く解体してくれないか・・・」
それは私ではなく大井川鐡道の社員さんに言うんだね。
そう突き離したら彼も男泣きに慟哭し始めたのである。

「これまでも俺を見に来たヤツらに言ったんだが、皆、無理だ、できないって言うんだ。お前は・・・お前も・・・この俺を見て何とも思わないのかよ」
何を言ってやがる。何とも思わないわけないだろ。心ある者なら誰でも打たれるさ。
「俺はいつまでこんな状態でここに晒されてなきゃならないんだ・・・」
・・・
気持ちはわかるが。できないものはできないんだよっ。

慟哭が止んだ。
悪いな。そういうことだ。
「ああ、君にあたってすまなかった。俺を見て気が済んだのならもうここから立ち去ってくれないか」
立ち去るさ。このままいたらこっちまで気が滅入ってきそうだ。

くるまに戻りかけたらまた彼の声が聞こえた。
「向こうにまだ、彼女はいるのか?」
彼女?まだ新しいSLのことか?
いた。泣いてたよ。
「彼女には、俺がまだこの姿でここにいることは黙っててくれないか・・・」
わかった。それは約束する。
別に言う必要なんてないよ。
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JRと接続する金谷駅は寂れていましたが、SLの基地である新金谷駅はそこそこお客がいました。そこを起点に本線上をカッコよく走っているSL車両は花形である。
だが今は花形でもいつかはこうなります。旧くなった中古車両の行く末がこれなのです。ここに搬入されたら最後なのです。解体され、使えるものが無くなれば、後は風雨に晒され錆びて朽ちていく。

もうひとつ聞いた話。ここは解体前に留置される場所だけではなく、修理できる車両はここで修理するのですが、他社から譲渡される車両もこの場所から搬入されるそうです。
他所から来た車両に意志があればこの廃景を見てどう思うだろうか。留置されている先達の車両たちから「いずれお前さんもこうなるんだよ」と言われて怖気をふるうだろう。
他所から来た車両はこの地から始まり、いずれこの地で終焉を迎える、そういう場所でもあるのですね。
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かつては子供たちを、観光客を喜ばせたであろうSLや客車たち。
それらを支えた裏方で、資材を運んだであろう無蓋貨車たち。
既に現役を終えた彼らはもう本線上を走ることはない。走れない。
車籍を奪われ、ボディの至る所から部品を取り払われ、最終的にはさっき見たような鉄屑になる運命なのだ。鉄道車両の墓場といっていい。だが墓標はない。
今ある光景が明日もある保証もないのです。
あ、別に私、この置き場を、再利用の仕方を非難しているんじゃないですからね。
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鉄道廃景の場所としてマニアに知られるこの場所はかつては大井川の砂利採取線の跡だといいますが、現在はこのような場所です。新金谷駅で明るい表情でいる観光客やチビっ子には見せない方がいいかもね。私も二度と来ないと思う。
というのは、去り際にまたさっきの彼女、SLの声が聞こえたのです。
「まだいたの?」
ええっと・・・さっき見た彼のことは言えないし。約束だし。
もう引き上げるよ・・・。
「あなたに小さいお子さんがいるなら、この場所は見せない方がいいわ・・・」
・・・
「夢を壊すだけですもの・・・見せないでね」
そうだな・・・。いないけどな。
「ここから立ち去って・・・そのまま行ってちょーだい」
・・・
「もう振り返らないで・・・戻らないでね。」
・・・
陽はさっきよりも更に西に傾いている。彼女のシルエットが逆光で眩しい。
私は赤錆びた彼との約束を守ってその場を急ぎ立ち去りました。瞳孔が涙でにじむ前に。
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コメント 4

峠おやじ

錆こっこの彼はC11ですね。タンク機関車で一番多く製造され、動態保存も多いです。彼女の方はC12の可能性もありますが、大井川鉄道で運用してるものがC11ですから多分同じでしょう。

で、その彼女、煙突の両横につけられているデフレクター(除煙板)が門鉄仕様(門司鉄道管理局式デフレクター)になってます。効果は標準デフとほとんど変わりなく、資材の節約になると言う理由だったそうです。九州のSLはこの形が多いようです。では現役時代に九州にいたかどうかはわかりません。

SLは1970年代に廃止になったので40年以上作られていないので部品調達ができません。そこで部品取りの在庫としてキープしてあるのでしょうが鉄道遺産・文化遺産として大事にしてほしいものです。
by 峠おやじ (2019-03-30 18:14) 

船山史家

峠おやじさんこんばんは。
飲み食い記事ばかりの私に似合わないダークファンタジーにコメントありがとうございます。
また、SL機種の解明も感謝です。

彼女と彼は同じ機種で、彼は今の無残な姿を彼女に知られたくなかったのでしょう。
メンテナンスされてない置きっぱなしの静態保存も無残なケースがありますが、別の目的を知ってしまったので見て何だか衝撃を受けました。最初は好奇心でしかなかったのですが、声を聞いてからやるせなくなりました。

本文中には書きませんでしたが、昨年、JR西日本からの譲渡車両(客車?)搬送を請け負った大阪府の運送業者が、申請して認可されたルートではなく別ルートで静岡県内の公道を走って搬入した事件があったそうですよ。道路法違反らしいです。
12系の客車とあったので、もしかしたら写真にある屋根の下に留置してあるブルーの客車かも知れませんね。
by 船山史家 (2019-03-30 18:58) 

t

中二病っぽくて面白いです
by t (2020-10-07 18:16) 

船山史家

tさんこんにちは。
過去記事にどーもです。
中二病?笑、後で調べてみます。
もいちど行ってみたい気もしますが。どうなってますかねぇ。
by 船山史家 (2020-10-07 18:36) 

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