SSブログ

Vacant room [人間ドラマ]

支店は空き部屋になっていた。
私とZ女史がいた頃の盛況振りは夢の跡になっている。
空き部屋1 (2)-1.jpg空き部屋2 (2)-1.jpg
空き部屋3 (2)-1.jpg空き部屋4 (2)-1.jpg
空き部屋5 (2)-1.jpg空き部屋6 (2)-1.jpg
中にあったものは全て撤去され、全室とも現状快復工事を済ませて家主さんに引き渡した。

空き部屋になる前、ここにZ女史は16年勤務していた。最初は一般社員だったらしいが、私が初めて出会った時は責任者になってましたからね。
窓辺にキーホルダーが置いてあった。

キーホルダー.jpg
Z女史のキーホルダーだ。
このキーホルダーにはメインの自動トアの鍵、シャッター開閉ボックスの鍵、警備解除のタッチキー、裏口の鍵、各部屋の鍵、そんなのがホルダーされてたんだろうな。

立ち合いしたウチの若いのが言うには、
「Zさんに近日中に会われます?」
「会うよ」
会う用事なんてないんだけど気になるのでそう返したの。
「このキーホルダー・・・」
「ああ、俺から返しておくワ」

私と女史はここで最初に出逢った。責任者でブイブイ言わせてましたね。
それから10何年経って、厳しい経営上の理由でクローズに至ったのです。女史は長年いた思い入れあるこの地を離れて今は別の支店にいます。

「あの人(Z女史)って今まで異動したことないんですか?」
「ない。私の知る限りではない」
「珍しいですねそういうのって」
「稀有な存在だよ。ずーっとこの店のヌシだったからね」
ウチの会社は異動がやたらと多い会社だが、何故か女史だけは異動が無かった。クローズになったから初めて異動したのです。ずっとずっとずーっとひとつこの支店にいたので異動の経験が全く無いのです。そんな社員、普通はいないですから。
女史2.jpg
クローズするにあたり女史は不安にさいなまれた。異動が無いまま10数年、他を知らないで今回提示された異動先の環境に受け入れられるか不安だったのだろう。
でもそんなん誰だってそうだよ。
「他を知らないのよ。ずーっとここだったモン。不安なのよ」(女史)
「異動が無かったってそんな社員は他にいないよ。よくずっとここにいられたね。稀有な存在だ」
「なんですってっ!」
女史は眦を釣り上げた。
「ウチはチェーン展開なんだから」
「わかってるわよっ」
他を知らないイコール胃の中の蛙だよと言いかけたけどさすがに言うの止めた。油に火を注ぐようなものだからね。あっ、逆か、火に油か。

女史はこれを機会に退職も考えたらしい。
私は退職するフリをしただけだと思っていますけどね。閉鎖を決定した会社にちょっと逆らってみただけですよ。
私はもう昔のように女史の担当でも交渉窓口でも何でもないのだが、「辞めます」と言われたら、もう今回は引き止めないつもりだった。これから先の彼女の人生は会社が決めるのではなく、彼女自身が決めればいいと思った。
だが、コロナ流行と感染拡大、このご時勢もあって退職は思いとどまった。初めての異動を受け入れたのです。

実は私、女史の現場がクローズになることは半年前、春頃だったかな。薄々知ってはいました。ジャン妻が作った全社全支店の予算策定フォームに、女史の支店だけある時期から売り上げが空欄だったのでそれでわかったんです。
「Zさんの店、閉めるみたいよ」
「そうか」
来る時が来たか。数字に表れた以上は決定だろうな。
でも今のウチの上長は、私と女史の長年の関係を知らない。私にではなくソリの合わないオンナに先に話しやがったんですよ。
https://funayama-shika-3.blog.ss-blog.jp/2020-03-08
この記事で、前にいる例のソリ合わないオンナN子が、女史の店をクローズするネタを上長とヒソヒソ話しています。当然、こっちにも聞こえたよ。人件費の振り分けがどうこう言ってたな。
ムカついたので外出途中からCメールしたのよ。
「さっき聞こえたぞ。女史の支店がどうしたって?」
後になってソリから着信があって出たら言い訳タラタラで、
「まだ極秘事項なので洩らさないでください」
「その極秘事項を俺に聞こえるように喋ってたのは誰だっ」
「ハイ・・・」
ソリさんよ、お前さんだって私と20年近くいるだろ。私とZ女史の関係は知ってるじゃないか。

クローズの話がOPENになってから私は女史は詰め寄られましたよ。
「前から知ってたんでしょっ!」
「まぁな・・・」
「何で先に言ってくれなかったのっ?」
先に?私の口から聞きたかったってこと?
「そういうのは正式決定する前に私の口からは言えないよ。正式に言うのは現場を統括する部門長だよ。彼、言いに来たんでしょ?」
「来たわよ。来た彼の表情を見て、あっ、とうとうそうなるんだってすぐ思ったもの。それまではろくすっぽ来もしなかったんだからさ。」
ということは、女史も日々の数字を見て先行きが厳しいとは感じてたんだと。覚悟はしてたんだとさ。
「部門長はここに来て何て言ったのさ?」
「決まったからって。それだけよ」
「それだけ?」
「そうよ。バカにしてるワ」
無機質な言い方だなぁ。「決まったから」、これだけかい。

「で、今後は?」
「異動先を2か所提示されたわ」
何処か聞いたらもちろん自分も知ってるし出入りしている支店だった。2つのうち1つは懇親会に3回呼ばれています。そこの支店長のT女史(仮名)ともいい関係(ヘンな意味ではない。)ではあります。
「異動先を提示されたのはいいんだけど、『Zさんもあと〇年だからウチにいた方がいいよ、退職金が満額出されてそれ以降も働けるからさ』って言われたわ。それにカチンときて」
ふぅ~ん、予想通りだ。
退職金満額云々って言っちゃったのね部門長は。
会社的に、立場的にはそう言うのもアリなんだろうけど。この女史に対しては敢えて言わない方が良かったんじゃないかな。
「お金の問題じゃないわよ」
ほうら、そう来たよ。
お金の問題って大事なんだけどね。会社側は女史の今後を会社也に心配して言ったけど、女史の年齢に照らし合わせて残り何年って算盤弾いたら逆鱗に触れたらしいな。
女史みたいに小さいプライドが高いベテラン女性にいきなりお金の、それも退職金の話なんかしたらアカンのですよ。そういうのは後から付いてくるんだし。
退職金云々だと、「どうせアタシはあと何年よ」ってなるじゃないですか。
前にもあったんだよ。別の部長さんが、「Zさん定年まで頑張ろう」ってね。「アタシは定年以降は要らないのね」ってアタマに来た女史は定年の無い会社を探したんだそうです。
でもウチの会社も、定年以降も再雇用で延長が義務になってるんですよ今は。

私だったら何て言うかな。
今日までを労ったうえで、
「これまでの経験を今後、他でも活かしてください」
だろうな。それだけでいいんですよ。

会社側のナンバー2が言ってしまったことに対して私はフォローしなくてはいけない。
「あのさ」
「なによっ」
「彼(ナンバー2)は口下手だから」
「それは知ってるワ」
「彼にしてみりゃお金の話とかを言うしかないさ。会社側はお金・・・って言うと生臭いけど、待遇云々を提示して社員を引き止めるしかないんだよ。Zさんに損がないようにね。それが会社だよ」
「・・・」
「彼の言ったことは間違ってないよ。むしろ彼の口から、『自分も会社もZさんを今後も必要としています』、な~んて言う方がウソくさいぜ」
「!!!」
フォローになってますかね。なってない気もするが。

「他、探したの?」
「探してはみたけど、アタシのこの年齢で・・・何よっ、あるわけないでしょうっ」
「だよね」
「ムッ!」
「Zさん」
「何さっ」
「残りましょう!」
「・・・」
「この話を知った時、自分は今後のZさんの人生を思うに、もし他をお探しになるなら無理して引き止めなくてもいいかなって思ってたんだが。」
「・・・」
「気が変わった!」
「!!!」

今まで何回か女史は、「だったら辞める」の繰り返しでしたが、その都度、「子供の教育費云々とかあるから辞めない方がいい」って何回も引き止めてます。
でももうお子さんたちも手が離れたから、今後は女史の好きにしていいのだが。
「残ろう会社に」
「・・・」
「こんなコロナのご時勢で冒険しない方が絶対にいい。まず異動してごらん。それからだよ」
「・・・」

少しだけ間が合って、
「異動は・・・受け入れるつもりよ・・・」
「うん」

会社は女史がいた支店をクローズするのではなく、他社へ売却の方向も検討したらしい。
だがそれには条件があって、売った相手(買った側)に最低でも1ヶ月、女史は出向しなくてはならないのです。これまでの管理者が残って次に引き継ぐ、これが保険の世界での条件なのだ。
ところがこの売却案が女史の知ることとなり、次に会った時、私は女史にこう言われた。
「買ってよっ!」
「???」
「〇〇さん(私のこと)がこの店を買ってよっ!アタシと一緒にっ!」
「!!!」
・・・

買ってくれってか。
無理言うなって。私は買う気なんてないし資金も無いし、今の会社に在職しながら別途経営するなんてことは副業を超えて社内規約に反する。
誰が女史に売却の方向性なんかを伝えたんだ。女史が買った他社へ移籍するなんてことにもなりかねないんだよ。それこそ人を捨てて売った金だけになるんだ。

でも、「アタシと一緒に買ってよ」ってか・・・
アタシと一緒、そう言われて、その、なんていうか、不思議な恍惚、感動を覚えた気もするんだな。そこまで自分のことをって。

でも感動してる場合じゃない。現実に立ち返って言った。
「無理だよ」
「・・・」
「そういう気はないな」
「・・・」
「私は会社側の人間だからね」
「そ、そうよね。・・・ゴメン無理言って・・・」
「異動は?」
「するわ。するしかないもの」

当初この記事のタイトルは、
「アタシを買ってよ!」
にしようかと思ったら、
「そんな誤解を招きかねない品の無いタイトルは止めなさい」
ジャン妻から制止がかかったものですよ。

売却案は流れました。大家さんの意向もあって、次のテナントが決まりかけていたのもある。
あとは最終営業日まで心にさざ波が立った穏やかならぬ状態で勤務を続けて、クローズした後は後片付けがある。これがタイヘンな作業なのだ。閉店による後始末作業は負のパワーが要るんですよ。
その後は異動先での勤務に慣れないといけないから、あまり長く閉店後の作業に携わっているわけにもいかないのです。
最終営業日の女史2.jpg
モザイクだらけのこの写真は最終営業日の風景、私は営業廃止に関する様々な書類を持って女史に渡した。右端には女史に閉店を言い渡しに来た男性もいます。
写ってないけどスタッフの中にはO美(草の者1号、昨日の記事の傘ガール)もいて片付け作業をしてた。1号は正式な職制では女史の部下、右腕だったのです。
1号-1.jpg
「Eさんから電話があったわよ」
「Eから?」
Eとは自己都合で1年だけ女史の支店で勤務した群馬のママさん社員ですよ。
https://funayama-shika-3.blog.ss-blog.jp/2018-11-07
私はEから「コロナ感染拡大のこの時期に東京から来ないでよ」と言われたのにカチンときて、Eとは疎遠というか、音信不通になってたんですが。
「私はEに喋ってないよ。誰がどういうルートでEに喋ったんだ?」
「誰々さんルートだって」
そういうお喋りなヤツがいるのですよ。
「Eさんたら、店閉めちゃうのぉ~、Zさんどうなっちゃうのぉ~、何処かへ異動になるのぉ~ってうるっさくってさぁ」
「Eのヤツは彼女也にZさんのことを心配はしてるんだよ。ただ、うるさいだけで」
「わかってるけどさ」
わかってるけど言わなきゃ気が済まないのが女史です。
こないだの群馬ネタの何処かで、私はEに会ったのですが、その時も、「異動先でZさん上手くやってるの?」とは言ってたね。
お喋りで地獄耳だから興味本位に取られかねないが、そんな性格悪いオンナじゃないです。やはり彼女也に心配はしとったですよ。

次に女史は私にこう言ってきた。
「〇〇さん(私のこと)も片付け手伝いに来てよ。〇〇さんだってこの店に思い入れあるでしょ」
今度はそうきたか。
思い入れはあるけど。ここで出会って一緒に勤務したんだから群馬に飛ばされる前まではね。
でも「思い入れあるでしょ」ってこういう辺りは女だなぁって思った。感情を共有したいんだね。

だが私は片付け作業に参加しなかった。政変があってナンバー2が交替になり、新なナンバー2はクローズ作業の手伝いを申し入れた私にこう言ったんです。
「大丈夫です。ウチの部署だけでやります。ご迷惑はおかけできません」
後でジャン妻は「それはアナタの言い方がマズかったのよ」と言う。私が新ナンバー2に「Zさんから頼まれているんだけど」と持ち掛けたら新ナンバー2は、Z女史が私を巻き込んで迷惑をかけたと思い込んだフシがある。
女史はムクれた。
「手伝いに来てくれないの?」
「う~ん、ストップがかかった。自分の言い方もマズったんだが、部門長からウチの部署だけでやりますって言われたから公には手伝いできないなぁ」
でも結果それでよかった気もする。私がいると女史は感情的になるからね。泣かれても困るし。
閉店後のいよいよ片付け最終日、女史が他スタッフたちとどういう別れ方をしたかも知らない。片腕だったO美(草の者1号)は後日になってからジワジワ寂寥感が沸いてきたそうです。
昨日の傘忘れネタは異動してからの話です。

1ヶ月くらい経ってから女史の異動先に冒頭のキーホルダーを返しに行ったのよ。私が持っててもしょうがないからね。要らなきゃ女史が捨てればいいんだ。
1ヶ月ぶりに会った女史はジト目で私を見た。
「来るのが遅いわよ」
「イヤイヤ、忙しくて」
「フン、そうよね。お忙しいですものね」
やれやれ。イヤミか。場所が変わっても本人は変わんないね。
私は女史と、いる支店の風景を見渡しながら、
「ふぅ~ん」
「何?」
「今までZさんはあの店(閉めた店)でしか会ったことがないから、他の場所で会うと何だか違和感があるけど、そのうち見慣れるんだろうな」
「何とかやってるわよっ」
「それは重畳」
キーホルダーを渡した。
「何これ?」
「あっちにあった」
「要らないわよ」
「また何か鍵でもホルダーしたら?この店の鍵とか」
女史は無言で受け取ったが、
「何で会社はああいう写真をアタシに送ってくるのよっ」
冒頭に載せた写真、工事終了して何もなくなった旧店舗の写真が女史の異動先の業務PCに送信されてきたんだと。郷愁を呼び覚ますようなことをしてからに。

女史が異動した先には古参の女性社員T女史がいて一応は私のシンパです。閉店した店で私と組んだこともあります。群馬に赴任する直前の休日当番で組んだんだった。
Z女史とT女史も旧知の仲ですが、T女史はジェラシーがね。私がT女史がいないときに出向くと、
「アタシがいなくてよかったですね。Zさんと2人で楽しくお話ができたでしょう」
T女史からこんなイヤミなメッセージが届くんですよ。
で、T女史がいる日に出向いてZ女史が不在だったりすると、今度は、
「Zさん今日お休みですよ。残念ですねぇ」
そんなイヤミを言われる。
じゃぁ2人揃っている日に出向くしかないのだが、2人いたらいたで2人交互にバランスよく話しかけなきゃならないのだ。
T女史は、Z女史がいた店を閉じたもとナンバー2が大嫌いなのだが、他にも嫌いな幹部が複数いるのです。
「誰か好きな人はいないの?」(ジャン)
「いますよ。〇〇さんかな」
私のことですよ。こっちも枯れてきてるし別に自画自賛してるつもりもないからね。ただ、そういうことをZ女史の前で言うもんだからさ。Z女史はそっぽを向いてたよ。
大丈夫かなぁ。第2幕は。
Z女史は「アタシがいる日に様子を見に来てよ」って言うしさ。まだ何か不安要素があるのかな。
「しばらく来ないよ」
「あ、そう。じゃぁお元気でね」
あのねぇ。。。

「キーホルダー返していただけましたか?」(冒頭の若いの)
「返したよ。現状復帰工事後の写真彼女に送っただろ。あんな写真送ってきて哀しくなるじゃないかって詰られたよ」
「ええっと・・・Zさん元気にやってましたか?」
「やってたけど・・・」
その話の流れで、私がZ女史とT女史の板挟みにあってる話をしてしまった。
「何であの2人をくっつけたんだろうな」
「それって。。。」(ソリ合わないオンナ)
「何だ?」
「いえ、何でもありません」(ソリ)
「男冥利に尽きるんじゃ・・・」(若いの)
(-“-;)
コメント(2) 

コメント 2

くまねこ

こんにちは。

人事異動って、シンドイのですよね。
通勤や仕事の内容が変わるのもそうですけれど、
人付き合いが特に。

私は、辞める前の最後の職場で、比較的話しやすい同僚に
「え、くまねこさん、マンガ読むんですか、知らなかった」
って言われましたよ。
2年も経った頃にね。
それくらい、ぼっちでした (^^;)

新しい職場に異動した方には、気を使ってあげてくださいね。
by くまねこ (2020-11-05 16:25) 

船山史家

くまねこさんこんにちは。
部署内フロア内の人事異動もキツイですが、ウチは支店間の人事異動がやたらと多いのです。そういうのは家からの通勤が変わるし。広域になると異動が転勤になりますからね。対象者の生活拠点が変わっちゃうんです。
支店先の人間関係に馴染むのもひと苦労です。
>新しい職場に異動した方には気を使って・・・
そうしたいのですが、11月の異動件数は10件あったなぁ。本人の希望よりもそこで欠員が出た穴埋めの異動が多いんですよね。だから100%会社都合です。通勤距離とかは考慮しますけどね。
厄介なことにそれまでいた支店に馴染んでない方がスムーズにいくのです。それまでいい関係だったのに異動先で上手くいかなくて「前にいた支店に戻りたい」なんてのもありますからね。
私も稀に相談受けるのですが「自分で居場所を作って馴染みなさい」と言うしかないなぁ。
キメは「俺なんか群馬に飛ばされたんだぞ」これは効きますね。
私はやっぱり会社側の人間なのです。
by 船山史家 (2020-11-06 09:10) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。